アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法:ASRリチウム工法)の報告 | コンクリート構造物に生じたASR(アルカリ骨材反応)を抑制する補修工法 亜硝酸リチウムを主成分としたASR抑制剤をコンクリート中に圧入し、構造物全体のASR(アルカリ骨材反応)を根本的に抑制|ASRリチウム工法協会

アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告

 
http://www.kkr.mlit.go.jp/kingi/event/05/kengi2003/kengi2003/k/pdf/4-2.pdfより

極東工業株式会社 技術本部 ○ 江良 和徳
三原 孝文

 

1.はじめに

 
 近年、アルカリ骨材反応(以下、ASRと記す)によるコンクリート内部鉄筋の破断が報告されるなど、ASRによるコンクリート構造物の劣化が大きな問題となっている。
 国内外の既往の研究により、リチウムイオンが高いASR抑制効果を有することが知られている。 従来のASR抑制対策としてリチウムイオンを使用する場合、コンクリートの表面被覆材またはひび割れ注入材に亜硝酸リチウムを混入し、コンクリート内部へイオン浸透させる工法がある。しかしこれらの工法では亜硝酸リチウムの浸透が年間数cm程度しか進行せず、十分な効果を発揮する前に再劣化を起こす場合がある。
 そこで我が社は、ASRの抑制剤として亜硝酸リチウム水溶液を直接コンクリート内部へ圧入し、コンクリート内部からASRを抑制する「ASRリチウム工法」を開発した。
 本稿は、亜硝酸リチウムのASR劣化抑制メカニズムとASRリチウム工法の特徴について述べるものである。
高圧注入状況|アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告

写真-1 高圧注入状況

2.亜硝酸リチウムのASR抑制メカニズム

 
 亜硝酸リチウムとは、「ナフサ」と「リチア輝石」を原料とする化学物質であり、コンクリート補修用混和剤として製品化されたものである。亜硝酸リチウム(LiNO2)は、正の電荷を帯びたリチウムイオン(Li)と、負の電荷を帯びた亜硝酸イオン(NO2)とがイオン結合した物質である。
 ASRとは、骨材中のある種の鉱物とコンクリート中のアルカリ性の細孔溶液との間の化学反応のことを指す。ASRを起こす可能性のある代表的な岩石として、オパール、フリント、チャート、火山岩などが挙げられる。これらの岩石中に含まれるシリカ鉱物(SiO2)と、主にセメントより供給される水酸化アルカリとの間に生ずる化学反応によって生成されるアルカリ・シリカゲルは、吸水によって膨張する性質をもっている。硬化コンクリート内部において生成されたアルカリ・シリカゲルの膨張圧力によって、コンクリートにひび割れが発生する。これがASRによるコンクリートの劣化メカニズムである。
ASRによるコンクリートの劣化過程・リチウムイオンによる膨張抑制|アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告
 ASRによるコンクリートの劣化過程は、第1ステージ「骨材中のシリカ鉱物(nSiO2)とコンクリート中のアルカリ金属との化学反応によってアルカリ・シリカゲル(Na2O・nSiO2)が形成される過程」と、第2ステージ「アルカリ・シリカゲル(Na2O・nSio2)が細孔溶液を吸収して膨張する物理化学的 な過程」に分離することができる。これを化学式で表すと図-1のようになる。
 リチウムイオン(Li)にASR抑制効果があるということは、1952年にアメリカのW.J.McCoyらによって初めて報告された。
 図-1にて示したASRの劣化過程第1、第2ステージのうち、リチウムイオンの存在下では第2ステージのアルカリ・シリカゲルの膨張が抑制される。すなわち、アルカリ・シリカゲル(Na2O・nSiO2)にリチウムイオン(Li+)が供給されることによって、水に対する溶解性、吸湿性を持たないリチウムモノシリケート(Li2・SiO2)またはリチウムジシリケート(Li2・2SiO2)に置換され、骨材の吸水膨張反応が収束する。これらを反応式で表すと図-2のようになる。
 アルカリ・シリカゲル(Na2O・nSiO2)とリチウムイオン(Li+)との反応により骨材の膨張反応が収束するため、以後、コンクリートのひび割れは進行しない。これがリチウムイオンによるASR抑制のメカニズムである。
 リチウムイオンをコンクリート補修材として使用するためには、リチウム化合物の形態とする必要がある。既設コンクリート構造物に外部から供給することを考慮すると、このリチウム化合物には、
 (1)高濃度の水溶液が得られること
 (2)コンクリートへの浸透性に優れること
 (3)セメント系材料との相性が良いこと
という性能が要求される。これらの要求性能を満たすリチウム化合物として、亜硝酸リチウムが選定された。
 

3.ASRリチウム工法

3.1 概要

 本工法は、亜硝酸リチウムを用いたコンクリート構造物の補修工法であり、主にアルカリ骨材反応及び鉄筋腐食の抑制を目的としている。対象構造物に注入孔を削孔し、そこから亜硝酸リチウム水溶液を高圧で注入を行う。本工法の概要を図-3に示す。
高圧注入工法概念図|アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告

図-3 高圧注入工法概念図

3.2 特徴

(1)亜硝酸リチウムの拡散・浸透速度が速い
 従来工法(表面塗布、ひび割れ注入)によるコンクリート中での亜硝酸リチウム浸透速度は1年間あたり20~30mmであるのに対し本工法では1MPaの圧力で約3週間の注入により250mm以上の拡散・浸透が可能である。
(2)アルカリ骨材反応抑制効果が高い
 コンクリート内部にリチウムイオンが十分供給されることにより、反応性骨材が不溶化するため、以後のアルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張を抑制することができる。
(3)鉄筋腐食抑制効果が高い
 コンクリート中の鉄筋位置周辺に亜硝酸イオンが十分供給されることにより、鉄筋の不動態被膜が修復されるため、以後の鉄筋腐食を抑制することができる。
 

3.3 高圧注入機

 高圧注入機の主仕様を表-1に、また外観及び概要を写真-2図-4に示す。
高圧注入機の主仕様|アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告

3.4 中空パッカー

 圧入部には中空パッカーを配置し口元で液漏れを防ぐ事とした。中空パッカーはナットを締め込む事でゴムを圧縮させ、その膨張で注入圧力に耐える構造とした。中空パッカーの外観及び概要を写真-3図-5に示す。
中空パッカー|アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告

4.施工概要

 
 ASRリチウム工法の主な施工工程は、下地処理(高圧洗浄)、事前調査、事前処理(ひびわれ注入・断面修復・表面シール)、鉄筋探査、圧入孔削孔、圧入、圧入孔復旧、表面被覆からなる。施工手順を図-6に示す。
施工フロー|アルカリ骨材反応抑制技術(亜硝酸リチウム高圧注入工法)の報告

5.おわりに

 
 ASRにより劣化したコンクリート構造物の補修材料として、亜硝酸リチウムが極めて有効であることが多くの研究によって明らかにされている。本論で述べた「ASRリチウム工法」は、亜硝酸リチウムの優れたASR抑制効果を最大限に利用し得る工法となっている。高圧注入機械の開発、各種供試体実験の段階を経て、2003年8月に島根県発注の砂防擁壁のASR補修工事として、また同年10月には国土交通省広島国道工事事務所から橋梁下部工のASR補修工事として本工法が発注された。ASRリチウム工法がASR抑制対策工の切り札としての役割を担い得るよう努力していく所存である。
 

【参考文献】

 
1)斎藤満、北川明雄、枷場重正:亜硝酸リチウムによるアルカリ骨材膨張の抑制効果、
 「材料」 Vol.41、No.468 (1992)
2)中村裕二、堀孝廣、ほか:リチウム化合物によるアルカリ骨材反応の膨張抑制効果、
 日本建築学会大会学術講演梗概集 (1991)