【第Ⅰ編 設計・施工基準】 4.設計基準 | コンクリート構造物に生じたASR(アルカリ骨材反応)を抑制する補修工法 亜硝酸リチウムを主成分としたASR抑制剤をコンクリート中に圧入し、構造物全体のASR(アルカリ骨材反応)を根本的に抑制|ASRリチウム工法協会

アルカリ骨材反応抑制工法 ASRリチウム工法 技術資料(初版)
【第Ⅰ編 設計・施工基準】

4.設計基準

4.1 標準設計フロー

 図4.1-1に標準設計フローを示す。
図4.1-1 標準設計フロー

図4.1-1 標準設計フロー

4.2 構造物劣化状況の整理

 設計図書などにより、対象構造物の一般構造およびこれまでの調査結果などから劣化状況の整理を行う。設計検討のためには以下のものがあれば望ましい。
  (1) 構造物詳細(一般構造、配筋図、設計基準強度、支障物関係、立地・環境条件等)
  (2) 外観状態(ひび割れ状態、延長、幅、密度等)
  (3) コンクリート物性(圧縮強度、弾性係数、促進膨張試験結果、アルカリ量分析結果)
  (4) 補修履歴(補修時期、補修方法、補修材料等)

 不足データがある場合には別途、調査を計画・実施するか、他の構造物での適用事例や近隣のASRを生じた構造物のデータなどを参考にして値を仮定する。ただし、コンクリート物性のうち、設計抑制剤量算定に用いるアルカリ量分析結果を仮定する場合には十分な膨張抑制効果が得られないことを避けるため、過去の事例の最大値(アルカリ総量 5~6kg/m3)とするなど十分安全側の値とすることが望ましい。

4.3 構造物に対する適用性の検討

 構造物劣化状況の整理結果に基づき、対象構造物に対して本工法が適用可能かどうか検討を行う。前述“2.適用範囲及び適用構造物"を適用可否の基準とする。

4.4 設計抑制剤量、濃度の検討

 アルカリ量分析結果より、躯体コンクリート中のアルカリ総量(単位体積あたりのNa+、K+の量であるが、一般にアルカリ量分析結果ではNa2Oに換算した質量で与えられる)におけるNaに対してLiのモル比が1.0となる抑制剤量(単位体積あたりに圧入する抑制剤の重量:kg/m3)を設定し、設計抑制剤量(対象構造物に圧入する抑制剤の体積:m3)はこれに対象構造物のコンクリート体積を乗じたものを抑制剤の比重1.25で換算することにより得られる。既往の研究報告等では“モル比0.5~1.5であればASRに対する膨張抑制効果が期待できる"とされるが本工法ではモル比1.0を標準とする。また、表3.3-1より、内部圧入への適合性から抑制剤は亜硝酸リチウム水溶液を用いることとし、躯体への圧入量を最少とする観点から、最も高濃度な40%濃度の水溶液を標準とする。このとき、図4.4-1に示すコンクリート中アルカリ総量(kg/m3)とモル比1.0となる抑制剤量(kg/m3)の関係を利用できる。
 しかし、外気温が0℃以下となる施工環境が予想される場合には抑制剤の温度低下による溶解度の低下から再結晶化が懸念される。このような場合、施工環境に応じて抑制剤の濃度設定を行うこととする。参考として図4.4-2に亜硝酸リチウム水溶液濃度と結晶析出温度との関係を示す。このとき、設計抑制剤量は希釈の度合いにより補正することが必要となる。

4.5 圧入孔(パッカー種別・圧入孔長)の検討

 圧入孔径は内径φ20 mmあるいはφ34mmを標準とし、必要となる圧入孔長や構造物の種別を勘案して選定する。標準の加圧パッカーは、鉄筋かぶりの1.5倍程度の長さのシングルタイプであるが、(施工基準において後述する)試験加圧注入の結果により、深部にも加圧パッカーを設置するダブルタイプへの変更の要否およびその最適な設置深度について検討する。
 一般にコアボーリングの直線精度は削孔径に比例するが、パッカー装着のための直線精度確保の観点から最大圧入孔長は3,000mm以内とすることが望ましい。圧入孔の削孔においては鉄筋の損傷を避けるため、少なくとも鉄筋かぶりの1.5倍以上の長さを残置することを標準とする。表4.5-1に加圧パッカーの種類と特長を示す。
 図4.5-1,図4.5-2に配孔パターンとパッカー設置の例(計画配孔図の例)を示す。また、躯体厚が3,000mmを超える構造物については、加圧パッカーの装着に必要なコアボーリングの直線精度確保が困難となるため、配孔計画においては、躯体両面の対称位置に圧入孔を配置することが必要となる
表4.5-1 加圧パッカーの種類

表4.5-1 加圧パッカーの種類

図4.5-1 配孔パターンとシングルパッカー配置の例(橋脚梁部の計画配孔図の例)

図4.5-1 配孔パターンとシングルパッカー配置の例(橋脚梁部の計画配孔図の例)

図4.5-2 配孔パターンとシングルパッカー配置の例(壁部の計画配孔図の例)

図4.5-2 配孔パターンとシングルパッカー配置の例(壁部の計画配孔図の例)

4.6 詳細圧入仕様の検討

4.6.1 設計注入圧力および上限注入圧力の設定

 一般に抑制剤の圧入に要する時間は注入圧力に比例して短くなると考えられるが、これまでの施工事例では、注入圧力0.5MPaであれば躯体表面からの著しい漏出・漏洩は比較的少ないものの、注入圧力が高くなるほど漏出・漏洩の発生頻度は高くなり、1.5MPaを超える場合、圧入の継続が困難となる可能性が高い。このため、設計注入圧力は0.5MPa~1.0MPaを標準とするが現状での表面処理材料による躯体表面のシール性の観点からは0.5MPa程度が推奨される。
 また、設計注入圧力は劣化した躯体コンクリートに対して圧入により悪影響を及ぼさないよう留意して設定する必要がある。表4.6-1に上限注入圧力の設定例を示す。ここではコンクリート物性調査結果の圧縮強度に基づき推定される引張強度に対して、安全率を考慮して3で除したものを上限注入圧力としている。
 以上より、注入圧力は躯体表面のシール性および上限注入圧力を考慮して設定する。

   ・推定引張強度=圧縮強度(コンクリート物性調査結果)/10
   ・上限注入圧力=推定引張強度/安全率
           ただし、安全率;3
表4.6-1 上限注入圧力の設定例

表4.6-1 上限注入圧力の設定例

4.6.2 詳細圧入仕様の検討

 詳細圧入仕様はこれまでの試験施工データに基づき、以下の手順で設定する。
   ①設計注入圧力P(MPa),圧入孔間隔,圧入孔本数(配孔計画)
   ②圧入孔1孔あたりに圧入する抑制剤量Q(m3)
   ③圧入に要する時間t(hour),設計圧入日数T(day)

①設計注入圧力P(MPa),圧入孔間隔,圧入孔本数(配孔計画)

 設計注入圧力P(MPa)は上限注入圧力を超えない範囲で設定することを基本とするが、施工性を考慮した場合、0.5~1.0Mpaの範囲で設定することが望ましい(0.5MPaを推奨)。
 圧入孔間隔はこれまでの施工実績を基に500 mmまたは750mmに設定することが望ましい。また、圧入孔の配置は隣り合う圧入孔の間隔が等しくなるよう図4.6-1に示すような千鳥配置を標準として配孔計画を行う。
②圧入孔1孔あたりに圧入する抑制剤量Q(m3)

 対象構造物のコンクリート中のアルカリ量分析結果から算定された設計抑制剤量と配孔計画により決定した圧入孔本数より、圧入孔1孔あたりに圧入する抑制剤量Q(m3)を算定する。

Q (m3) = 設計抑制剤量 (m3)/圧入孔本数

③圧入に要する時間t(hour),設計圧入日数T(day)

 先に設定した設計注入圧力P(MPa)、圧入孔1孔あたりに圧入する抑制剤量Q(m3)、対象構造物の諸元(部材厚L(m),圧入孔径D(m))より、次式を用いて圧入に要する時間t(hour)を求める。これを一日あたりの圧入時間(例えば昼間のみ施工の場合、8時間など)で除すると設計圧入日数T(day)を設定できる(算定式については【第Ⅱ編 設計圧入日数の算定方法(案)】参照)。
圧入に要する時間t(hour)は

t = Q/q (hour)

ただし、
 
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 ここに、
  Q:圧入孔1孔あたりに圧入する抑制剤量 (m3)
  q:時間当たりの圧入量 (m3/hour)
  kα:抑制剤の圧入のしやすさに関するパラメータ。コンクリートの圧縮強度に応じて表4.6-1の値を内挿補間
     するか、【第Ⅱ編 設計圧入日数の算定方法(案)】の経験式を参照して設定する (m/hour)
  P:設計注入圧力(MPa)。上式では106倍することによりN/m2に単位を換算している(1MPa=106N/m2)。
  ρ:抑制剤の密度(=1,250)(kg/m3
  g:重力加速度(=9.8)(m/sec2
  L:部材厚 (m)
  D:圧入孔径 (m)

 このとき、T:設計圧入日数(day)は

T = t/(一日あたりの圧入時間)

 標準圧入仕様として径、間隔、注入量について試算した例を表4.6-1に示す。
表4.6-1 ASRリチウム工法 標準圧入仕様(コンクリート中のアルカリ総量を5.0kg/m3とした場合)<br>(推奨される仕様を着色した)

表4.6-1 ASRリチウム工法 標準圧入仕様(コンクリート中のアルカリ総量を5.0kg/m3とした場合)
(推奨される仕様を着色した)

※コンクリート中のアルカリ量(Na2O)1.0kg/m3(Na+量0.74kg/m3)の場合のモル比が1.0となるLi+量は0.226kg/m3となる。このとき、コンクリート単位体積あたりに必要な抑制剤量(亜硝酸リチウム40%水溶液)は4.28kg/m3である。
ただし、1孔あたりの抑制剤量(m3)への換算は抑制剤の比重を1.25とした。上表の値を補正して種々のアルカリ量に対する、おおよその設計圧入日数を知ることができるが、詳細は本節の計算手法によることが望ましい。

4.7 表面シール工・補助工法含めた全体フローの検討

 ASRリチウム工では効果的な抑制剤の圧入のためには躯体表面のシールが重要となる。このため、構造物の種別及び劣化状況に基づき、必要に応じて表面シール工・補助工法を検討し、その実施時期を含めた全体の施工フローを設定する。一般に用いられる表面シール工法・補助工法の例を以下に示す。

  (1) 既設塗装剥離工
    過去に表面被覆により補修されている構造物の場合、抑制剤の圧入のために必要な表面シール工を施す
    ために現況の既設塗装を剥離する。
  (2) 断面修復工
    断面欠損を生じている場合、表面シール工を施すために断面修復工により不陸を修正する。
  (3) 表面シール工(ひび割れ注入工)
    ASRリチウム工の際、躯体表面のひび割れからの抑制剤漏出・漏洩防止を目的として、幅0.2mm以上の
    ひび割れに対しひび割れ注入を行う。
  (4) 表面シール工(表面被覆工)
    ASRリチウム工の際、躯体表面の微細なひび割れからの抑制剤漏出・漏洩防止を目的として、表面被覆を行う。

4.8 効果確認工の検討

 必要に応じて効果確認工の検討を行う。効果確認工として実施されることのある試験の概要については(参考資料)2.効果確認のための各種試験に示す。
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