日経コンストラクション「ASRリチウム工法(地御前)」 | コンクリート構造物に生じたASR(アルカリ骨材反応)を抑制する補修工法 亜硝酸リチウムを主成分としたASR抑制剤をコンクリート中に圧入し、構造物全体のASR(アルカリ骨材反応)を根本的に抑制|ASRリチウム工法協会

亜硝酸リチウム水溶液を加圧注入
一つの工法でアル骨と塩害に対処

地御前こ線橋補修工事(広島県)

 橋台や橋脚を削孔して亜硝酸リチウム水溶液を注入。コンクリートのアルカリ骨材反応を抑えるとともに、塩害による鉄筋の腐食も防ぐ---。こんな"一石二鳥"の工法が2005年11月、広島県廿日市市にある国道2号の地御前こ線橋で初めて採用された。
コアボーリングで直径32mmの注入孔を削孔しているところ。事前にレーダー探査機で鉄筋の位置を確かめた。

コアボーリングで直径32mmの注入孔を削孔しているところ。事前にレーダー探査機で鉄筋の位置を確かめた。

 同橋は1973年に完成。上り線と下り線の2橋がJR山陽本線をまたぐ橋長約70mの2経間単純桁橋だ。
 同橋のA1橋台とA2橋台、P1橋脚に、それぞれひび割れが多数発生していた。コンクリートのアルカリ骨材反応が原因だった。
 調査の結果、上下線のA1橋台は、いずれもアルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張がすでに収束していることが判明。一方、上下線のA2橋台とP1橋脚はともにアルカリ骨材反応の「加速期」で、ひび割れが今後も拡大する恐れがあった。
 さらに海岸から200mほどしか離れていない同橋には、飛来した塩分が多く浸透していた。各橋台や橋脚の塩化物イオン量は、鉄筋の位置でコンクリート1m3中に約4.2kg。コンクリート標準示方書が鉄筋の腐食する塩化物イオン量として定めた同1.2kgを上回っていた。

二つのイオンが効果を発揮

亜硝酸リチウム水溶液を試験注入して、漏れがないか確かめている様子。一つの橋台や橋脚に設けた注入孔の数は200~300ヵ所。安全を考えて一度に全ては削孔せず、削孔と注入をそれぞれ3回に分けて施工した

亜硝酸リチウム水溶液を試験注入して、漏れがないか確かめている様子。一つの橋台や橋脚に設けた注入孔の数は200~300ヵ所。安全を考えて一度に全ては削孔せず、削孔と注入をそれぞれ3回に分けて施工した

 そこで、国土交通省中国地方整備局広島国道事務所は、以下の補修工事を実施することにした。
 A1橋台は上下線ともに、ひび割れの補修と表面被覆をして、外部から水分や塩分の侵入を遮断する。
 一方、A2橋台とP1橋脚は上下線ともに、ひび割れを補修した後、コンクリートの内部に濃度が40%の亜硝酸リチウム水溶液を注入した。
 同水溶液の注入には、二つの効果を期待した。
 一つは、アルカリ骨材反応を抑制する効果。水溶液中のリチウムイオンが、アルカリ骨材反応で生じる生成物の反応や膨張を抑制する。
 もう一つは、塩害による鉄筋の腐食を防ぐ効果だ。水溶液中の亜硝酸イオンが鉄イオンなどと反応して、塩化物イオンが破壊した鉄筋の表面の不導体被膜を再生。鉄筋に有害なさびが生じないようにする。

1m3当たり20万~30万円

地御前こ線橋の全体図 同橋の補修工事は2005年3月、広電建設(本社、広島市)が約1億200万円で受注した。同補修工事のうち、A2橋台とP1橋脚に亜硝酸リチウム水溶液を注入する工事を、鴻池組が下請けで受注した。
 鴻池組などは2000年、同水溶液を注入してアルカリ骨材反応を抑制するASRリチウム工法を開発。すでに、約15件の施工実績があった。「ただし、同工法を塩害対策にも使うのは初めてだった」と同社土木技術部の内田博之主任は話す。

劣化の状況と補修工法

劣化の状況と補修工法

 そこで、水溶液をコンクリートの内部まで浸透させるアルカリ骨材反応対策用の注入孔に加え、鉄筋の周囲だけに浸透させる塩害対策用の注入孔も設けた。前者の注入孔の深さはコンクリート表面から1.85m、後者は同0.15mとした。

亜硝酸リチウム水溶液によるアルカリ骨材反応と塩害の抑制策 水溶液は前者の注入孔から約0.7MPa、後者から約0.5MPaの圧力でじわじわと注入した。「橋台や橋脚のコンクリート1m3当たり22~27kgの水溶液を注入した」と内田主任は説明する。
 水溶液の注入量は、以下のようにして決めた。まずは、コンクリート中のナトリウムなどのアルカリ金属イオンとリチウムイオンのモル比が1になるときの水溶液の量を計算。さらに、コンクリート中の塩化物イオンと亜硝酸イオンのモル比が1になるときの水溶液の量を計算する。両者の水溶液の量を比較して、多い方を注入量とした。

注入孔の配置図
A2橋台のアルカリ骨材反応によるひび割れ。塩害対策として電気防食工法もあるが、費用が高いうえ、アルカリ骨材反応を促進する恐れがあったので、採用しなかった

A2橋台のアルカリ骨材反応によるひび割れ。塩害対策として電気防食工法もあるが、費用が高いうえ、アルカリ骨材反応を促進する恐れがあったので、採用しなかった

 ASRリチウム工法でアルカリ骨材反応対策と塩害対策を同時に施すことで、別々に実施するのに比べて施工費を抑えられた。
 塩分量が多いコンクリートをはつって断面修復する一般的な塩害対策工法は、コンクリートの表面1m3当たり約20万円かかる。アルカリ骨材反応対策の工事を別に実施すれば、費用はさらに膨らむ。
 一方、「ASRリチウム工法の費用は、コンクリート1m3当たり20万~30万円程度だ」(内田主任)。
 塩分量は多いが、見た目はまだ劣化していないコンクリートをはつって断面修復することに抵抗がある発注者も多い。「同工法は、はつらずに塩害対策ができる利点もある」と内田主任は話す。